2020年1月、指定感染症に指定されたコロナウイルスは、緊急事態宣言の発令と外出自粛要請によって、一時期感染拡大が抑制されました。しかし、2020年8月現在、再び感染が拡大しています。
外出自粛などが消費活動の鈍化を引き起こした結果、宿泊業や飲食業など多くの産業が打撃を受けました。経済活動はコロナ以前と比較して大きく縮小しており、2020年8月現在、日本の景気は後退局面に入っています。
世界的に景気が後退する中で、コロナ前までは値上がりが続いていた中古不動産市場にはどのような影響があったのか、また、今後はどのように推移していくと予測されるのかについて解説します。
目次
1、コロナが中古物件の不動産投資に与えた影響
コロナの感染拡大によって全国的に景気が後退した中で、中古物件の不動産投資にはどのような影響があったのか、中古マンションの価格や成約件数などから解説します。
(1)中古マンションの価格は全国的に大きな変化がない
東日本・近畿圏など日本各地のレインズが発表しているデータを参照すると、中古マンションの価格は、どのエリアでもコロナ前後で大きな変化がありません。
地域別の中古マンション成約価格(㎡単価)推移は以下の通りです。
どの地域も、4月〜5月に少し値段を下げていますが、6月以降は持ち直しています。上下動の幅も目立った値動きと言えるほどではなく、中古マンションの価格においては、2020年7月現在、コロナウイルスの影響はそれほど出ていません。
(2)成約件数は全国的に減少している
中古マンションの価格についてはそれほど影響が出ていない一方で、成約件数は一時的に大きな影響を受けました。
地域別の中古マンション成約件数推移は以下の通りです。
中部圏は首都圏・近畿圏と比較すると影響が軽微です。しかし、緊急事態宣言が発令されて外出自粛要請があった4月〜5月は、各地域とも3月の半分程度まで成約件数が減りました。
その後、緊急事態宣言が解除された6月には、成約件数はかなり回復しています。4月〜5月の件数減少は、景気後退など経済状況の影響を受けたというよりも、外出自粛による物理的な影響による結果と考えられます。
なお、6月〜7月の成約件数は2月〜3月の水準には届いていませんが、12月〜1月と同程度の水準となりました。通常、3月前後は人事異動に伴う転勤などで人の動きが増える時期で、不動産市場も活発になります。
このように考えると、6月〜7月の成約件数は、市場が通常に近い状態へ戻った結果ともいえるでしょう。
(3)中古物件の賃貸成約件数の推移
続いて、東京23区の賃貸成約件数推移です。
2019年第4四半期および2020年第一四半期の賃貸成約件数は、前年同期比で約10%減となりました。1月〜3月期の成約件数が多いのは、入学・就職による引越しが増加したためと考えられます。
一方、4月〜6月期は前年同期比で約20%減りました。4月〜5月は中古マンションの成約件数も大幅に減っていたことを考慮すると、賃貸成約件数にも外出自粛の影響があったといえるでしょう。賃貸住宅の入居状況に関しても、外出自粛の影響が特に大きかったことがわかります。
2、今後の中古物件価格推移について
サラリーマンが資産形成に対する考え方などについて、八木チエの「不動産投資の女神チャンネル」の動画にて分かりやすく解説していますので、ぜひご覧ください。
ここまで中古マンションの価格や成約件数の推移を確認してきました。ここからは、今後の中古物件価格の推移について解説します。
これまで低金利のローンが住宅価格の上昇を下支えしてきたことを考慮すると、今後、突然大幅な値下がりが起こる可能性は低いです。
(1)中古マンションの価格推移
直近1年間の中古マンション価格推移を見ると、首都圏では約6ヶ月を1単位としたサイクルで増減を繰り返すものの、全体的にはほぼ横ばいです。すでに解説した通り、中古マンション価格に対するコロナの影響は限定的なものにとどまっています。
一方、2020年7月以降、コロナウイルスの感染者は全国的に増加しています。緊急事態宣言を再発令すべきとの声もあり、再び外出自粛要請があった場合は、中古マンション市場にも影響が出る可能性はあるでしょう。
しかし、4月〜5月の外出自粛による影響が限定的で、価格にはそれほど影響がなかったことを考慮すると、今後についても突然大幅に価格が下がるということは考えにくいです。
(2)低金利が住宅価格を下支え
ここ数年、首都圏を中心として不動産価格は値上がりを続けてきました。これまで不動産価格の値上がりを下支えしてきたのは、マイナス金利政策に起因する低金利です。
マイナス金利は2016年2月に導入され、これ以降、住宅ローンおよび不動産投資ローンの金利は非常に低い状態を保ってきました。ローン金利の低下が消費者の住宅需要や投資意欲を引き出した結果となっているため、金利が上がらない現状では、価格にもそれほど変化が出ていないものと考えられます。
3、不動産投資ローンのコロナによる影響
不動産投資家の大半はローンを利用して投資しているため、不動産投資ローンの変化が不動産投資市場に与える影響は大きいです。
今後の不動産投資ローンは、金利は変化がないと考えられる一方で、融資枠が縮小されると考えられます。
(1)低金利は今後も続く見通し
コロナの広がりによって世界全体で経済が打撃を受ける中、各国では金利引き下げの動きが相次いでいます。日本の金利はアメリカの金利による影響を受けますが、アメリカでも経済対策として金利が引き下げられました。
また、日本銀行は2020年6月16日に金融緩和政策の維持を決めています。6月17日の記者会見で、日本銀行の黒田総裁は、直近の金利引き上げは難しいとコメントしました。
マイナス金利の導入は、金融緩和による景気浮揚を目的としています。一方、2020年4月〜6月期のGDPは、前期比マイナス27.8%(年率換算)です。内閣府の発表ではコロナウイルスは景気を大きく後退させており、金利引き上げの材料は見当たらない状況です。
金利を引き上げる見通しが立たない現状では、低金利も当面続くと考えられます。一方、住宅市場の過熱感はコロナ以前から指摘されており、近いうちに値下がり局面に入るという見方もあります。
例えば2020年の秋以降、緊急事態宣言が再発令されて再度成約件数が減少したなどの場合には、不動産市場が縮小したという判断が広がり、値下がり局面に入る可能性もあるでしょう。
しかし、低金利が継続する見通しを考慮すると、突然大幅な値下がりをするというわけではなく、継続的で緩やかな値下がりが起こると考えられます。今後の不動産市場を見極めるためには、継続的な情報収集が重要です。
(2)融資は企業の救済が優先となる可能性
住宅需要や投資意欲を下支えしてきた低金利は今後も続くと予測される一方で、景気は確実に後退しています。外出自粛によって一部の産業は大きな影響を受けており、政府や地方自治体においては、各事業者の経営を援助することが喫緊の課題となっています。
各金融機関においても、行政の要請を受けて企業の救済が急務となっており、融資枠の多くが法人向けに割かれている状況です。経済的危機にある現状では、金融機関にとって個人の投資は優先順位が下がるものと思われ、融資は企業の救済が優先となるでしょう。
消費刺激の観点から実需向けの融資については門戸が開かれる一方で、投資向けの融資については、融資枠が厳しくなるものと考えられます。融資を利用しづらくなった場合は、金利が低いままであっても、投資家の投資意欲を削ぐことになるでしょう。